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倫理支援

一緒に考えてみよう!:ELSIと感染症

 2019年末頃から流行の兆しを見せ始めた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界規模の感染拡大(パンデミック)へと至りました。感染した人々はもちろん、この流行によって日々の生活様式は変更を余儀なくされ、非常に多くの人々が今日まで大変な思いをしてきました。
 このように急速にパンデミックの脅威が発生した場合は、誰もが当事者となり社会の異なる場面で様々な決断を迫られることになります。
 感染症が流行した際に考えられる様々な問題について、倫理的・法的・社会的課題(ELSI)の観点から考えてみましょう。

感染症医療とELSI

 感染症の急速な拡大への対応を迫られる医療現場において、倫理的な観点は二つの意味で必要とされます。
 第一に、医療に従事する人々は、予想を上回る数の患者が発生した場合、逼迫した状況の中で病床や人工呼吸器などの限られた医療資源を分配しなければいけなくなる可能性があります。その際には、医学的な判断に加えて、どのような基準に基づき分配をおこなうのが倫理的に妥当性をもったものといえるのかを考えなければなりません。医療資源の分配は患者の生命を大きく左右するものとなります。そして第二に、このような倫理的な決断を迫られる局面は、現場の医療従事者にとって大きな精神的負担となるかもしれません。種々の事情によって必ずしも平等な医療が実現できない状況は、医療従事者に平時以上に自らの医療行為の倫理性を問うことになり、モラルディストレス(倫理的な苦痛)を引き起こす場合があります。
 つまり、医療現場においては、患者により適切な医療を提供するため、そして医療従事者の精神的な負担を軽減する意味でも倫理的な側面が重要となってくるのです。

感染症研究とELSI

 現場の医療と平行して、未知の感染症を解明するためには、ウイルス学や感染症の基礎研究がこれまで積み上げてきた手法で調査がおこなわれることになります。その過程では、多くの個人情報をあつかうことがあります。
 たとえば、ある地域や施設に居住する人々の検体を採取し、感染状況を把握する必要がある場合、研究者は、検査に参加するにあたって参加者が抱く不安を取り除くよう配慮しなければなりません。検査への参加の判断については参加者の主体的な意思を尊重し、検査が感染者を特定するためのものではなく感染拡大を抑制するためのものであること、そしてもし仮に陽性であると判明した場合でも、十分なケアが受けられるという筋道を提示することが有効なのです。
 また、感染状況を調査するために唾液などの検体を採取しゲノムの解析をおこなう場合であれば、得られるのはウイルス由来の情報のみとなります。他方、検体として血液を採取する場合、研究者は検体提供者についての様々な遺伝情報を知りうることになります。人生を左右しかねない貴重な個人情報をあつかう上では、研究者と患者との間の信頼関係が不可欠です。予期していない感染症の流行に備えて、日頃から倫理的、法的な観点から社会全体で議論を積み重ねていく必用があるといえるでしょう。

ELSIについてみんなで考えてみませんか

 感染症が流行した際に倫理的な判断を問われるのは、医療に従事する人々や研究者だけではありません。感染症への対策が十分に確立されていない状況では、誰もが日常生活の中で制限を受けたり、倫理的な判断を問われる場面に直面します。マスクの着用やワクチンの接種に関する自己判断や外出の自粛、自身の体調についての自己申告などはその代表例といえます。その際、特定の行動様式を他者に強制しないというあり方もまた大切になってきます。そして、これは今回のような感染症に限られたことではありません。他の様々な疾病、そして災害などに際しても、倫理的な行動のあり方について考えることが求められます。
 それゆえに、こういった問題に関しては、世代、分野の境を超えて社会で横断的に議論されることが必要です。緊急的に倫理的な判断を迫られるという状況は過酷なものでもあります。日頃から倫理について考え、継続的に意見を交わしていくことは万が一に備える準備にもなるのです。
 現在、公開シンポジウムなど、社会の色々な場所で感染症をめぐる問題について市民が議論する場が設けられ始めています。
 皆さんは、どんな意見や考えをお持ちでしょうか。

(執筆:山下大輔)

参考文献:広瀬 巌『パンデミックの倫理学』勁草書房 2021年。樽井 正義「HIV/AIDSからCOVID-19へ― パンデミックと生命倫理」:日本生命倫理学会『生命倫理』VOL. 31 NO.1 通巻32号所収。児玉聡「COVID-19パンデミックと公衆衛生倫理の三つの課題」:同書所収。

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